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O先生のこと

公開日: : 日記

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 O先生が亡くなった。90歳の、まあ、大往生だった。昨日の日曜日は、岡山まで家族でお通夜に伺ってきた。

 

 先生と言っても俺の先生ではなく、うちの親父がデザイン学校に通ってたときのデッサンの先生だ。岡山と京都に拠点を構え、学校で教鞭をとったり、写真を撮ったりしているときに出会ったらしい。

 苗字が同じということもあって、うちの親父は学生時代から妙に可愛がられ、卒業後も飲みに行ったり、遊びに連れて行ってもらったりしており、子どもが生まれたときも命名の相談に行ったほどの仲の良さ。

 結局、俺の名前には先生の名前から一文字をもらったということで、俺にとってもゴッドファーザーと言うべき存在なのだった。

 ヨットを一艘持っていて、俺が小学校から中学校の頃には親父についていって、クルージングに何度も連れて行ってもらった。

  O先生は、京都の某芸大の先生もやっていて、洋画も描くし、写真も撮る(写真展には何回か行ったけど、先生の絵はぜんぜん見たことがなかった)。

 俺が小学校の当時で60台後半なのにムキムキで、ダイビングもお手の物。

 さらには、詳しいことはよく知らないけど、修験道系のとある宗派の偉いさんもやっていたらしい。お宅にうかがったときに、押し入れの中から独鈷杵とかそんなのを見つけたときには、『孔雀王』の映画が好きな俺たち兄弟は大興奮だった。

 

 芸術家にして海の男にして宗教家。まあ、漫画に出てくるようなスーパー爺さんだったのだ。

 

 そんな先生の体調がやばいらしいと聞いたのはつい一週間ほど前。親父は慌てて入院先の岡山の病院に行き、その時はある程度お話もできたらしい。それならしばらくお会いしてないので、近いうちに一度会いに行くかと思っていたのに、その1週間後に亡くなられたと連絡が来た。

 先生の訃報を聞いたときの最初の気持ちは、悲しいでも寂しいでもなく、「ああ、O先生でも死ぬということがあるのだなぁ」というものだった。先生が死ぬということがピンと来ないぐらい、豪傑っぷりを子供心に刷り込まれた強烈な爺さんだった。

 

 お酒が大好きで、酒にまつわる伝説も多い人で、昨日のお通夜の席でも短い間に様々な話が出た。

 京都のお宅は嵐山にあったのだが、ある晩、いつものように飲んでいると、暴走族が近所を走り回ってうるさい。そこで、家にあった模造刀のサーベルをぶら下げて、単身で暴走族のもとに乗り込み、族を追っ払ったのはいいが、今度は刀を振り回してるジジイがいると通報されて警察のお世話になっただとか、

 酔っ払った勢いで、祇園の歌舞練場の看板と某芸大の看板を入れ替えただとか(勝手に持ってきただけじゃなくて、あの距離を運んでわざわざ「入れ替えた」ってのが頭がおかしい)、

 飲み代がないってことで、芸大の講堂の暗幕を取っ払って質屋に入れ、「けっこうええ値になったんや」と言ってたとか、

 家で日本酒を飲んでいるときに、小2の次男が旨そうと言ったので飲ませたら、ぶっ倒れて病院に運び込まれただとか、

 まあとにかく破天荒。今なら大学の先生がそんなことやったら、どれ一つとっても懲戒免職ものの事件ばかり。いい時代だったと言うしかない。

 

 O先生のことを思い浮かべたときには、やはりヨットでの思い出が蘇る。

 先生のヨットには、うちの親父を含めて、先生を慕う様々な人が集まっていた。大人ばかりの中で、子供一人で乗っていることがほとんどで、自分の知らない世界を垣間見る、貴重な時間だった。

 

 霧の立ちこめる夜明け前の大阪湾を出発したとき、見張りを命じられ、船首に立って、霧の向こうに目を凝らしたこと。

 突然巨大なタンカーが目の前に現れて、慌てて回避を知らせたこと。

 (もう忘れちゃったけど)もやい結びの仕方を教えてもらったこと。

 まだ当時は珍しかったGPS機器に描かれた航跡。

 魚群探知機を見ながら、トローリングで釣ったタチウオの銀色、シイラの金色。

 汚い赤潮が、月明かりの下では、航跡を青白く輝かせる夜光虫になること。

 陸地のひとかけらも見えない凪の海で見た、日の出と夕暮れ。

 黒潮は本当に濃い青色で黒っぽいこと。

 「船で飲むと回るわー」と言いながら、毎夜続く大人たちの宴会。

 飲み過ぎて舷側からゲェゲェと吐きまくる大人たちの醜態。

 それでもまた「迎え酒や」と言いながら飲み続ける楽しそうな様子。

 酔っ払ったら飛び出してくる、軍歌のがなり声。

 鹿児島の漁港で漁師さんにもらったラベルの貼ってない芋焼酎の味。

 海図に「激」と記された土佐湾沖を、台風のすぐ後を追いかけて行った大荒れの海。

 とんでもない船酔いでぐったりして寝込んだ船室の窓から見えた海面が、船よりはるか高い位置に見えたこと。

 船酔いしすぎて、一日かかってもお茶の一杯も飲めなかったこと。

 マストにいっぱいに張られた白い帆。

 船を進ませる強烈な風。

 向かい風でもジグザグに進めば前にすすめるということ。

 酒の匂い、海の匂い、雨の匂い。

 船室の天窓に切り取られた星空。

 

 すべて俺の子ども時代をとんでもなく豊かにしてくれた体験で、今の俺を形作る大事な思い出です。

 俺が真似できるのは酒好きなところぐらいで、先生のように破天荒でもないし、力も金もないけれど、先生と一緒にいて体験したときの気持ち、楽しさ、高揚感を、また友や子どもたちに伝えられるようでいたいと心から願っています。

 本当に長い間ありがとうございました、O先生。

 

 

 

 

 これは余談だけれど、密教系の宗教家でもあった先生。お通夜のお経は天台宗の僧侶で、よく見慣れた浄土宗や浄土真宗とは違い、これがまた変わっていた。

 読経に使う小道具も見慣れぬ物が多いし、途中で細長い棒で(おそらく)梵字を空中に書くなど、所作も変わっていた。

 特に違ったのがお経。

 南妙法蓮華経とか般若心経とは違い、リズムが独特で、非常に変拍子的。リズムに乗りにくいことこの上なし。

般若心経をポップソングとすれば、これはまさにプログレッシブロックやフリージャズの趣。

 読経の最後には、「オン……ボダラ……マリ……」みたいなマントラが入ってるし、明らかに日本の葬式仏教とは異質。

 確かに、それぞれの教えを考えてみても、「修行して己を磨くことが仏の道につながる。衆生を救う必要はない」という密教系の教えは「テクを磨いて、わかるやつだけわかればいい」というプログレマニア的な感性に通じるような。

 それに対して浄土宗は、「南無阿弥陀仏さえ唱えておけば、難しいこと考えなくても極楽に行ける」だし、浄土真宗なんて、南無阿弥陀仏すら唱えなくてもよくなってて、「阿弥陀様を信じる心さえあればいい」となっちゃってる。これは、「大切なのは『愛してる』の言葉だけ。ただひたすらに夢を信じて。そのままの君でいいんだよ」というありがちなJ-Pop歌詞的な世界。

 ポップになる、大衆的になるということはどんな分野でも似たような変遷をたどるんだなぁと思った次第。

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